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こころの健康シリーズ\ 現代の災害とメンタルヘルス

No.10 災害後の子どものメンタルヘルスについて

東北医科薬科大学精神科学教室 福地 成


災害に関連した遊び

 いわゆる「トラウマ」を経験した子どもが、その出来事に関連した遊びを繰り返すことがある。自然災害であれば、地震ごっことか、津波ごっこ、避難所ごっこなどがある。避難所のような環境では、避難しているほかの大人も周りにいるので、そのような遊びを見ているのが忍びなくなり、強く叱ってしまい、遊びそのものを止めさせてしまうことがある。こうした遊びは「ポストトラウマティック・プレイ」や「再演」と呼ばれる現象であり、ほかの人への悪影響がある場合は例外だが、原則、無理やり止めさせる必要はないと考えられている。

 どうしてか。言語能力が発達した年齢であれば、その違和感を言葉で表現し、周囲の大人が受容的に傾聴することで体験や記憶を整理することができる。しかし、言語能力が未熟な年齢の子どもたちは、言葉ではなく遊びの中でその体験を再現する。大人が「その遊びをやめなさい」と叱ることは、まるで大人に対して「その話をするな」と言っているのと同じであり、子どもたちにとっては心の整理を妨げられる行為となりうる。専門職が介在している場合、遊びをポジティブな顛末に導く工夫も効果的である。例えば、遊びをハッピーエンドにすることで、子どもたちの心の回復を助けることができる。時間が経てば自然に減少することも多いため、大きく逸脱しない限りは制止せず見守ることが大切である。

心理的デブリーフィングについて

 心理的デブリーフィングは、つらい出来事の後、体験を詳述し感情を表出させる支援方法で、1990年代には有効と考えられていた。そのため「早くつらい体験を表出した方が早く治る」という誤った知識が広まり、過去の自然災害の現場でもこの方法が使われることがあった。しかし、過去の研究結果をレビューした結果、緊急時の外部支援においては無効もしくは有害であることが示唆されている3)。近年の災害後のメディア報道では、外部支援者が子どもたちにインタビューをしたり、作文を披露させる映像が見られる。十分な関係性を築かないまま絵を描かせたり、劇を演じさせる行為も同様である。もちろん、この関りで回復が促される子どももいるが、無防備にのせられる子どもや断る勇気がない子どもにとっては、侵入的な行為となりうる。保護者が子どもに「なんでも話していいからね」と勧める場面も多く遭遇するが、話すか話さないかを子ども自身が選べることが回復につながる。

 支援する立場になったとき、子どもたちが話してくれることは遮らずに最後まで聞き、必要以上に聞き出さない姿勢が推奨される。子どもたちが自分のペースで話すことができる環境を整え、無理に感情を引き出さないことが重要である。心理的デブリーフィングのように、感情の表出を強制することは避け、子どもたちの心理的安全を第一に考えるべきである。PFA(心理的応急処置)の原則は「Do no harm(害をおよぼしてはならない)」であり、状態が悪化する可能性がある関わりはできるだけ避けるべきである。支援者は子どもたちに害を与えず、彼らが自分で選択できる支援を心がけることが求められる。

 

みちのくこどもコホートからみえること/最後に 

はじめに/子どもの発達とこころの反応
クールダウンすることが大事/遊び場の重要性
災害に関連した遊び/心理的デブリーフィングについて
みちのくこどもコホートからみえること/最後に

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