東北医科薬科大学精神科学教室 福地 成 みちのくこどもコホートからみえること東日本大震災以降、筆者は地域の児童精神科医として、宮城県沿岸部の子どもたちの心身の健康を見守ってきた。震災からおよそ5年が経過したとき、岩手県・福島県の被災地において一様に「震災後に生まれた子どもたちの落ち着きがない」「その保護者の心身の健康が心配だ」という声が地域から聞かれるようになった。震災直後の混乱した環境下で、被災地で育った子どもたちの心理発達に何が起きているのかをあきらかにするため、震災 から5年後の2016年からみちのくこどもコホートを開始した4)。震災直後の1年間に出生 した子どもとその保護者をリクルートして、縦断的に追跡し、心身の健康状態を確認しながら長期的な支援を提供している。宮城県ではおよそ70のご家族にご協力いただき、毎年コンタクトをとって現状の確認をしており、被災した地域で暮らす子どもとご家族の生活全般を知る貴重な機会になっている。また、子どもが所属する保育所や小学校にも定期的に訪問し、コホート対象外の子どもの様子も含めて地域の現状を知ることができている。 今までの取り組みから見えてきていることがいくつかある5)。子どもの認知発達と行動・情緒問題および保護者のメンタルヘルスは、ベースライン時には課題があることが示唆されたが、経年的に改善が認められている。一方で、ベースライン時に保護者に抑うつ傾向がある場合、子どもの行動と情緒問題は残存する傾向が確認されている。対象の子どもたちは震災後に生まれているため、直接的なトラウマは被ってはいない。しかし、震災は保護者に深刻なストレスを与え、間接的に子どもの発達に影響していることが示唆された。震災前後の生活環境、特に保護者がその地域のなかでつながりを感じているかどうかが関わっている可能性がある。つまり、何らかの課題がある子どもに出会ったとき、子どもだけに何らかの介入をするだけでは不十分であり、さらには保護者を支援するだけでも不十分であり、ご家庭が周囲とうまくつながる地域づくりが欠かせないということである。大災害後のメンタルヘルス支援の根幹は、甚大な被害を受けたコミュニティーの機能を維持し、保護者が孤立せずに子育てしやすい環境をつくることにあるといえよう。 最後に度重なる自然災害を通じて、日本の災害精神医学は大きく発展してきた。みちのくこどもコホートやその他の研究から、直接トラウマを受けていない次世代の子どもに影響がおよぶことや、家庭とコミュニティーのつながりの重要性も認識されるようになった。被災した個人だけではなく、コミュニティー全体の回復を目指した環境づくりが必要であり、 CFSやPFAはそのための有効な手段と言うことができる。災害の体験から得られた知見により、「個人」から「集団」までを対象とした災害精神医学の発展が期待される。
参考文献
はじめに/子どもの発達とこころの反応 |
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