東北医科薬科大学精神科学教室 福地 成 クールダウンすることが大事災害現場に私たちが直面したとき、子どもたちに対して最優先するべきことはクールダウンさせることである。災害直後には気分が高揚し、はしゃいだように振る舞う子どもが観察されることがある。声や動作が大きく、怒りっぽく、周囲の刺激に敏感になり、不眠になることもある。自分の身を守るために神経を高ぶらせて、不測の事態に備えるための正常な反応と考えることができる。危機が過ぎ去った後も長く続く場合は、生活面にも大きな支障を来すようになる。 破壊的な逸脱行動につながる場合には、大人が制御して生活の中に一定のルールを設定することが望ましい。 ストレス解消と称して、激しい運動や大音量で音楽を奏でることなどはお勧めできない。ストレッチやヨガなどで神経の高ぶりを沈める働きかけが望ましい。クールダウンできる時期が早いか/遅いかには個人差があるが、ひと山を越えると脱力したようにエネルギーが底をついてしまうことがある。これは回復のために必要な時期であるため、無理に頑張らせるような働きかけではなく、ゆっくりと見守ってあげるスタンスが必要である。 遊び場の重要性災害時の子どもたちの遊び場の確保は非常に重要である。災害後、学校の校庭や公園は避難所や炊き出しの場となり、安全に遊べる空間が限られてしまう。子どもたちは遊びを通じて感情や行動のコントロールを学ぶため、遊び場が減ってしまうことは成長に悪影響を及ぼす。近年、日本の自然災害では国際NGOが迅速に現地に入り、子ども向けの遊び場を設置することがスタンダードになっている。これらの遊び場は、国際的な人道支援の基準に基づいて設計され、子どもたちのニーズに対応している。 緊急事態における子どもの空間づくりの指針として、 2009年にUNICEFが発行した「A Practical Guide for Development Child Friendly Spaces」がある。これを基に、日本ユニセフ協会は日本の実情に合わせた「子どもにやさしい空間(Child Friendly Spaces, CFS)」を作成した2)。CFSでは、心のケアのノウハウよりも、子どもが平常を取り戻すための遊び場の 構造や必要な備品、活動スケジュール、スタッフの構成や人材確保、空間のデザインについて詳しく解説されている。さらに、緊急事態が収束するにつれて遊び場が縮小または地域に機能が移行されるため、CFSでは地域の人々と連携することの重要性も強調されている。 遊び場の設置に並行して優先するべきは、安心感の提供である。避難場所、食べ物、衣服などの物理的な安心感だけでなく、子どもが安心できる大人が近くにいることが大切である。災害によって生活リズムが乱れていることが多いため、一日に三食食べること、最低限の睡眠時間を確保すること、慣れ親しんだ友達や先生と過ごすことが心身の安定につながる。さらに、子ども会や習い事などの日常性を取り戻すことも重要である。
はじめに/子どもの発達とこころの反応 |
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