NPO法人相双に新しい精神科医療保健福祉システムをつくる会 4.支援者自身の心のケアと向き合えること大災害では、住民、支援者、地域に多くのストレスが降りかかる。現地の支援者は、復興までの長い時間、通常以上の力を必要とされる。同時に、SOSを出せないまたは出すことをためらう住民や支援者のケアは後回しとなる。中長期の支援はこれらのケアが表面化する。 災害にかけるエネルギーが大きすぎる外部支援者、緊急時における他市町村との提携、精神疾患の未治療者、偏見の問題、職場の課題、職場改善。これらのことは、考えてみれば、災害時ではなく平素に対策ができるものばかりである。これまでの活動から、心のケアとは、人、地域が抱える向き合いたくないもの、先送りにしていることに向き合うことではないかと思えてならない。しかし、それ以上に、心のケアを行う専門職も自分に向き合う必要がある。ケアセンターに9年間在籍した臨床心理士足立知子氏(現 就労移行支援事業所ディーキャリア松江オフィス)に、ある日こういわれた。「センター長、訪問は実は怖いんですよ。心理士は生活の場に入って、日常の中で支援するという訓練は受けていないんです。規格外な仕事に慣れすぎて、もう、普通の心理士には戻れないかもしれない」と語ってくれた。この告白がきっかけでなごみでは、「専門外できないことは専門外」という標語ができた。実は、私も、怖かったことがある。災害がきっかけで、病院から地域での仕事になったが、病気かどうかわからない住民の支援は苦手だった。医療者の優位性に守られていたのだろう。震災後しばらくは、来所相談や啓発活動、事務作業はろくにできなかった。しかし、苦手なことは、苦手と認め表現し、国外内から様々な支援を受けるなかで、スペシャリストでありジェネラリストにもなれた。おかげで、他人からみて、私は看護師とは思われないことが多いなんでも屋になっている。 東日本大震災後、「心のケア」の重要性が取り上げられることが増加し、物理的な支援に加え「生業」「語り部」「孤立予防」などの被災地の支援をみかけるようになった。しかしながら、震災や平素の地域の心のケアの専門職の存在はあまり知られていない。心のケアの分野において専門家はいるが、訪問力、来所力、マネジメント力、啓発力、組織マネジメント力、コンサルタント力など、地域の活動において実践力を備えた専門職はほとんどおらず、いるとすれば特殊部隊の隊員のような存在になっている。これは専門化が進みすぎ、様々な技能を兼ね備える必要がないことが原因であると思われる。このような状況では、大災害後の様々な心の問題に関連した予防活動に踏み込めない。 災害でも地域でも活動できる、力のある医療保健福祉従事者は絶滅危惧種となりつつある。今後、なごみの活動が当たり前となり全国に広がることを期待しつつ、私も自分の人生に向き合い続けたいと思う。 おわりにこのような私の備忘録を書かせていただくきっかけをいただいた、東日本大震災後、南相馬市に腰を据え支援を継続しているほりメンタルクリニック院長 堀有伸氏に、感謝を申し上げたい。
参考文献
はじめに/1.支援者が支援者に翻弄される |
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