東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野 國井泰人 1.はじめに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック(いわゆるコロナ禍)によって私たちの生活が一変して2年半以上が経つ。2022年9月14日に、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長がパンデミックの終わりが視野に入ってきたと述べ、その数日後には、バイデン米国大統領がパンデミックの終息を宣言するなど世界的にはようやく楽観的な考えが大勢となってきているものの、日本では強い同調圧力を背景に、今尚国民のほとんどが外出時にマスクを着用し、様々な制限が課せられる不自由な生活を継続している。 コロナ禍は全世界で6億人以上が感染し、650万人以上が亡くなるという未曾有の公衆衛生上の危機となった。日本では感染拡大を防ぐ対策として、3密の回避、テレワークの推奨、飲食店の休業要請等の行動自粛が行われ、その象徴としてソーシャルディスタンスが謳われた。そもそも感染対策の意としてはフィジカルディスタンスが正しいが、各メディアによりソーシャルディスタンスという語が浸透し、あたかも積極的な社会的交流は悪であるというメッセージが横行した。その結果、日本では欧米のような顕著な感染拡大に至ることはなかったものの、社会の各層において人々の分断がかつてないほど高まった。ニューノーマルともいわれる通り、このような社会の構造変化は不可逆的なものである可能性があり、アフターコロナとなってもしばらく続く可能性が高い。本稿では、2年半に及ぶコロナ禍がメンタルヘルスにもたらした影響の実態について概括し、アフターコロナにおけるメンタルヘルス対策の展望について述べる。
1.はじめに |
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