東北大学災害科学国際研究所 災害精神医学分野 國井泰人 3.アフターコロナにおけるメンタルヘルスの展望では、このようなコロナ禍におけるメンタルヘルスの実態に対してどのような対策がなされてきたのだろうか。WHOによる世界130か国の調査をまとめた総説21)によれば、重点対象者として、罹患者、医療従事者、子ども、思春期などの若い世代、精神疾患患者等が挙げられ、遠隔医療・遠隔治療(調査対象国の70%で実施)、相談窓口の確立(同67.7%)、感染防御策(同65.4%)は高い率で実施されているものの、カウンセラーの拡充(20.8%)、地域アウトリーチサービス(同33.1%)などは低い水準に留まっていた。日本でも同様であり、保健所・精神保健福祉センター等の相談事業の強化、自殺対策の強化、DV・児童虐待関連への対応の強化などが予算化されたが、これらは従来の相談事業の延長線上に過ぎなかった。元来、日本のメンタルヘルス対策は、各自治体、大学などの研究教育機関、医療保健福祉機関、企業、NPO等がそれぞれ独自に行ってきており、産官学が連携して、地域の現状やニーズを踏まえ、科学的な情報を集積・分析し、最新の技術開発と実装化を結びつけてメンタルヘルス問題に取り組むという体制はほとんどなかった。
現在、このコロナ禍はようやく終息の兆しが見えつつあるものの、今後も長期にわたる対策が必要と考えられ、この間に当たり前となったニューノーマルな生活様式や価値観は「ウィズコロナ」あるいは「アフターコロナ」となる今後も継続していく可能性が高い。この社会転換は急速に進んだため、その各所でひずみが生じており、不適応感を抱える人が増大したので、コロナ禍におけるメンタルヘルスの諸問題は今後一層大きくなる可能性がある。この危機に対しては、従来の精神医療のシステムやアプローチだけでは対応が難しいと考えられる。しかし、この苦境は、すでに社会実装が可能なレベルに発展しているものの、これまでは十分利活用されてこなかった、脳科学や人工知能(AI)、ロボット工学、情報通信技術(ICT)を基盤とした在宅でのデジタルセンシング、バーチャルリアリティ等の先端技術を一気に浸透させる好機と捉えることも可能である。
はじめに |
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