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こころの健康シリーズ\ 現代の災害とメンタルヘルス

No.7 大規模災害の支援者への支援について

兵庫県こころのケアセンター 大澤智子


災害救援組織のおける対策の現状

 消防、警察、自衛隊、海上保安のような職業救援者の場合は、惨事ストレスが生じることを前提とした予防や介入が組織内に存在しつつある1)。基本は教育だ。新人時代から基礎知識や対処策を学ぶことで、惨事ストレスを経験した際に自分の状態を適切に理解したり、仲間の状態にいち早く気づけたりして、適切な対応につながるのだ。

 また、総務省消防庁は各都道府県に専門家を配置した「緊急時メンタルサポートチーム」を創設しており、殉職など酷い事案の発生後、現場職員や組織の支援を行っている。最近では、地域の保健所や民間病院と連携し、消防本部が独自に対応することも増えている。

 海上保安や警察は全国をいくつかの区域に分け、惨事ストレスやメンタルヘルスのアドバイザーとして地域の専門家を任命している。登録している専門家は講話や研修を行ったり、メンタルヘルス関連の相談にのったりしているのだろう。自衛隊は所帯が大きく、国内外での支援活動を行っていることもあり組織内に専門職を配置し、対応を行っている。

 

注意が必要な手法:ディブリーフィング

 惨事ストレスの緩和策として、「ディブリーフィング」と呼ばれるグループミーティングの手法がある。現場活動から数時間後に関係者を集め、8人前後のグループで当時のことを特定のテーマに沿って話す。元々はアメリカの軍隊で利用されていた。前線で戦う兵士が後方に戻って来た際に、トラウマを防ぐことを目的に開発された。その後、同じくアメリカの救急救命士ミッチェルが現場活動時の惨事ストレスの影響を予防することを目的に使用するようになった2)

 そして、この手法は事件や事故の被害者や被災者にも使われるようになる。阪神・淡路大震災直後、海外から神戸の被災地に専門家がやって来て研修を行うくらい、最先端のトラウマ予防方法だと当時は考えられていた。しかし、2001年11月、災害やトラウマに関わる研究者や専門職がアメリカに集まり、それまでに発表された調査結果を基に、事件事故後に行うべき介入の指針を発表した3)。そこで明確に述べられているのは、ディブリーフィングは予防効果がないだけではなく、害をもたらす可能性が示唆されているため、心理的な予防介入としての利用は推奨できない、ということだ。ディブリーフィングとは本来「事後報告」という意味で、その名の通り、事案の事実関係を確認し、教訓があれば次回に活かすことを目的にしたものだ。指針は、本来の言葉が持つ目的で利用するのに留めるべきだと記している。

 日本でもこの手法を採用している災害救援組織はある。すでに記した通り、その根拠が薄い中、なぜ使い続けるのか不思議に思う読者もいるだろう。災害救援職は酷い目に遭った人を助けるように叩き込まれる。そのため、影響を受けている仲間に何かをしたい気持ちも強く、この手法はそんな救援者にとって使い勝手がいいのだと思われる。実際に自分が受け手となり、役に立ったと思った人もいるかもしれない。しかし、懸念されるのは、業務の一環として、自分の気持ちを上司や同僚の前で語ることを強いられることだ。運用上のルールとして、話したくない人は発言しなくてもいい、となってはいるが、指揮命令系統がはっきりしている組織で上官が進行役を担っている場合、このようなルールが本当の意味で遵守されるのか疑問だと言わざるを得ない。誰のために、何を目的に行うのかを考えると本当にその手法が望ましいのだろうか。そして、回復には、安全な場が必要で、誰に話すのか、いつ話すのか、そして、何を話すのかは本人に委ねられるべきではないのだろうか。いま一度、検討するべき重要な点だと思われる。

 

今後の課題

はじめに/災害救援者と惨事ストレス
惨事ストレスの影響
災害救援組織のおける対策の現状/注意が必要な手法:ディブリーフィング
今後の課題

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