兵庫県こころのケアセンター 大澤智子 今後の課題このように災害救援職は惨事ストレスの対策を講じてきているが、災害時に支援を提供する組織間には温度差があるのも事実だ。特に、医療関係者や公的組織の職員を対象とした惨事ストレス関連の教育や対策は遅れていると言わざるを得ない。災害時に派遣されるDMATやDPATは研修の中に惨事ストレスあるいは支援者のメンタルヘルスに関連する講義はあるものの、その時間は半時間程度と極めて短い。 公的組織の職員の例としては、コロナ禍における保健所職員の惨事ストレスが記憶に新しい。受け入れ病院が見つからず罹患者の生死を左右するような決断を下し続けなければならなかったのは明らかに強い惨事ストレスだったと言える。その上、同じ組織で働いているにも関わらずある一部の職員だけが不眠不休で働かざるを得ない状況にあった保健所や病院もあり、心や身体が悲鳴を上げていたことは本こころの健康シリーズのNo.1やNo.3でも報告されている。コロナは未知の感染症であり、手探りで対応をしなければならなかった。また、程度の差はあれども全国に罹患者がいたため、災害時のように都道府県や市町村間での支援ができなかったことも状況を悪くした一因だ。とはいえ、この3年の教訓から学んだことは未来に活かされなければならない。 災害対応時における管理職の役目は特に重要である。職員の心身の健康を観察しながら、彼らの苦労を労い、職員同士のコミュニケーションが円滑になるよう、管理監督職は努めなければならない。いわゆるラインケアは職員が自分の能力を発揮しやすくなる場を整えることだ。非常時であるからこそ、職員が守られていると感じられる対応が必要なのだ4,5)。また、職場が安全な場であることはもちろんだが、彼らの家庭環境がどうであるのかについても心が配れなければ真の意味で、いい管理職、とは言えない。結局のところ、普段できていないことは非常時にできるわけはないのだ。災害時の支援者支援は普段の取り組みが試されるということなのだろう。
参考文献
はじめに/災害救援者と惨事ストレス |
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