三重県こころの健康センター 楠本みちる はじめに平成23年3月に発生した東日本大震災を経験して、災害派遣精神医療チーム(DPAT: Disaster Psychiatric Assistance Team)は、平成25年に設立された。 災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領(令和6年3月29日改訂)1)によると、DPATは以下のように規定されている。「自然災害や犯罪事件・航空機・列車事故等の集団災害が発生した場合、被災地域の精神保健医療機能が一時的に低下し、さらに災害ストレス等により新たに精神的問題が生じる等、精神保健医療への需要が拡大する。このような災害の場合には、被災地域の精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療福祉体制との連携、各種関係機関等とのマネージメント、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援が必要である。このような活動を行うために都道府県によって組織される、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チームがDPATである。」 DPAT設立後、国内の多くの被災地での支援実績がある。それに伴い課題もみられるようになったが、一方、今後の活動の発展の可能性も秘めていると思われる。本稿では、既に報告されている研究成果、ガイドライン、三重県の状況等を紹介しながら、DPATについて述べたい。 尚、筆者は都道府県の精神保健福祉センターに勤務しており、所属自治体のDPAT統括者の1人である。全国の精神保健福祉センターはDPATや災害時精神保健医療福祉の活動に関与しているが、本稿は、全国の精神保健福祉センターや自治体の意見を代表するものではないことをお断りしておく。
1.DPATの現状DPATは、精神科医、看護師、業務調整員の数名で構成する。基本的に1つの精神科病院に所属する職員から成り立っている。災害発生から約48時間以内に所属する自治体外での活動を開始できる隊を先遣隊と呼び、国から委託されたDPAT事務局が養成研修を行う。先遣隊では精神科医は精神保健指定医である必要がある。活動期間は約1週間である。先遣隊に続いて活動する都道府県DPATはLocal DPATとも呼ばれ、各自治体で養成している。 令和5年度DPAT統括者・事務担当者研修資料およびDPAT事務局による「自治体におけるDPAT関連体制整備状況調査」によると、先遣隊登録機関は、平成25年度11機関であったのに対して、令和5年7月時点では111機関までに増加している。令和4年度末時点の都道府県DPAT医療機関・隊員登録数は、全国計で医療機関数420、医師928人、看護師1642人、業務調整員1709人、計4279人である。ほぼ同時期の調査結果であるので比較をしてみると、前述の都道府県DPAT医療機関数420に比べて、先遣隊登録機関は111と少ないことがわかる。 令和2年から始まった日本での新型コロナウイルス感染症発生時にもDPAT活動が実施された。令和5年7月までに計12都道府県において新型コロナウイルス感染症対応のDPAT活動が行われた。令和6年3月のDPAT活動要領改訂では、新興感染症に係るDPAT活動に関する項が記載され、DPATの正式な活動内容として位置づけられた。 令和6年1月に発生した能登半島地震においても、DPATが派遣された。能登半島地震においては、先遣隊と都道府県DPAT隊の混成チームが初めて派遣要請されて活動を行った。 DPATは平成25年に設立されて以降、多くの活動実績を重ねてきた。その主な活動内容は、被災都道府県でのDPAT調整本部運営、DPAT統括者のサポート、DPAT活動拠点本部運営、精神科病院支援、精神科病院からの患者搬送(転院等)、避難所での診療や相談、DMATや保健師チーム等他の保健医療組織等との情報共有や連携、支援者への助言を含む支援等、多岐にわたっている。
はじめに/1.DPATの現状 |
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