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こころの健康シリーズ\ 現代の災害とメンタルヘルス

No.9 災害派遣精神医療チーム(DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Team)について

三重県こころの健康センター 楠本みちる


3.三重県DPAT研修の現状

 三重県では、平成28年度から三重DPAT研修を年1回開催している。新規三重県DPAT隊員(Local DPAT)の養成と、既に養成された先遣隊員及び三重県DPAT隊員の技能維持という2つの目的を持っている。令和2年度、3年度は新型コロナウイルス感染症の流行のため、オンラインで開催した。令和4年度からは録画動画による事前自己学習と主に演習のための集合研修を組み合わせて実施している。参加対象は主に県内医療機関職員・精神保健担当県職員だが、保健所職員・市町職員・県外医療機関からの見学者も受け入れている。南海トラフ地震で甚大な被害が発生することが想定されているためか、県内関係者の災害対策への意識は高い。三重県DPAT研修も先遣隊医療機関やDPATインストラクターを中心とする関係者の熱意と努力で継続している。

4.DPATの課題と今後の役割について

 災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)は、平成17年に設立された。平成7年の阪神・淡路大震災を教訓に、災害現場で救助活動と並行しながら関係機関と連携して医療活動を行う必要性が認識され、設立に至ったものである。令和4年4月1日時点で、DMATチーム数は1754、DMAT隊員数は15862人である4)。多くの災害活動を経験して、各地でDMATとDPATの連携は少しずつ進んでいると思われる。

 DPATは先遣隊のみDPAT事務局で養成される。前述の1.DPATの現状の通り、都道府県DPAT医療機関・隊員登録者数に比較して先遣隊数は、少ない状況である。DMATと比較して、DPATでは人員、装備、予算等で大きな格差がある。DMATを整備することで、総合病院は診療報酬上有利になる仕組みがあるのが、精神科病院におけるDPATとの大きな違いである。今後精神科病院がDPATを整備することに拠る診療報酬上の評価がされると、DPATの整備も進むだろう。

 一概に病床数のみを比較対象にはできないが、全病床数の中で精神病床の占める割合は決して小さくはなく、また患者調査による精神疾患患者数は増加の一途をたどっているという現状がある。

 災害発生急性期は、身体疾患への救急対応が優先事項となる。災害発生急性期にDPATが必要であるのか、DMATに同行して活動したほうがよいのではないのか(そういうケースもあると思われる)という意見を耳にすることもある。

 DPATが優先的に必要な場合として、被災した精神科病院からの転院搬送があげられる。精神科入院治療では、措置入院、医療保護入院という非同意入院や、隔離、身体拘束という行動制限が存在し、精神保健指定医の指示や精神科専門職の関与が必要というのがその理由である。

 医療体制、そして精神科医療体制も地域によって実情は様々である。DPAT活動が、自治体の保健師を中心とする保健活動等や他の精神保健医療活動と活動時期や地域が重なりあう場合もある。したがって役割分担の明確化や連携等の調整が必要となる。

 DPAT活動開始に関しては、DPAT活動マニュアル5)により先遣隊待機の目安が記載されている。実際の派遣は災害対策基本法に基づいて、被災都道府県が派遣要請をし、派遣都道府県が派遣を決定することで、被災地での活動開始に至る。難しいのは、DPAT活動終了の判断であると思われる。「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル」の中で、DPAT調整本部立ち上げ基準(案)、DPAT撤退判断の基準(案)が示されている2)6)

「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル」では、災害ステージと時間経過の目安を次の6段階で示している。

ステージ0(準備期:発災前)
ステージ1(立ち上げ期:発災から概ね3日後まで)
ステージ2(活動期:概ね発災4日後から3週間目まで)
ステージ3(移行期:概ね発災3週間目から1か月目まで)
ステージ4(中期:概ね2か月目以降)
ステージ5(長期:概ね1年以降)

DPATの活動はおおよそステージ2くらいまでを想定しており、その後撤退を判断していくことになる。撤退のおおよその目安は、通常の診療機能の回復状況、避難所の開設や避難者数の推移等である。しかし、災害の種類、被災地域、被災の程度、人口構成、復興のスピード、被災地の診療体制等、状況に応じて、求められる支援機関・支援内容は各々異なってくる。今後も、災害ごとに柔軟な対応を求められることが想定される。

イラスト

 令和4年度厚生労働科学研究費「災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動期間及び質の高い活動内容に関する研究」研究分担者:丸山嘉一「DMAT、日赤からみたDPATの活動開始、終了基準、Local DPATの役割に関する研究」7)によると、DPATの終了時期は精神科医療ニーズの対応が終わるまでであるが、精神保健MH(Mental Health)と心理社会的支援PSS(Psychosocial Services)の繋ぎ役・調整者としての役割が期待されていることが示唆されたという。

 今後、災害時に支援者や被災住民に対して、DPATが時宜を得た簡易な集団精神療法を行う等、災害時精神保健医療福祉に従事する他の組織とは異なる、より専門的な役割を果たすという可能性もあるかもしれない。一方で、技術に走ることなく、被災した人々の所に赴き、そばにいて、まず気持ちを受け止めるという精神保健医療の基本の再確認も重要だと思う。

 

おわりに

はじめに/1.DPATの現状
2.災害時の精神保健医療福祉活動について
3.三重県DPAT研修の現状/4.DPATの課題と今後の役割について
おわりに

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