三重県こころの健康センター 楠本みちる
おわりに
災害時精神保健医療福祉分野の記述からやや逸れることをあえて承知のうえで、最後に私見を述べたい。近年大規模災害が各地で頻発している。気候変動等の影響もあり、今後も災害への準備と対応は一層求められていくと思われる。災害への準備は住民、支援者、支援組織、自治体など各レベルで、年々発展・充実してきていると感じる。しかし、これだけ災害が頻発し、多くの支援組織が活動するようになってきた一方で、災害初期の衣食住・安全のための基本的な装備をもっと改善できないのだろうかという疑問も感じている。全国の被災地に汎用できそうな装備・施設が更に開発されることを希望している。その点で、イタリアの避難所における生活支援に関する紹介は参考になるだろう8)。イタリアの自治体、ボランティア団体での視察内容が紹介されている。キッチンカー、食堂、トイレ、シャワー、ベッド、テントが備蓄されており、発災後短時間でパッケージとして被災地に届けられ避難所を設営する仕組みになっている。これらは公費で購入され、各地の事前に訓練を受けたボランティアによって管理・運用されているという。MHPSSのレベル1で要求されているのは、生きていくために必要な基本的ニーズに関する支援である。災害初期に提供される装備・施設の底上げを図ることで、災害時メンタルヘルス問題の減少に寄与する可能性はないだろうか。
参考文献
1)災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領 令和6年3月29日改訂
2)厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究 研究代表者:太刀川弘和「自治体の災害時精神保健医療福祉活動マニュアル」(long version)令和3年3月
3)IASC(Inter-Agency Standing Committee)機関間常設委員会 災害・紛争等緊急時における 精神保健・心理社会的支援に関する IASCガイドライン 2007年
4)厚生労働省 第8次医療計画等に関する検討会 第6回救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ 資料1https://www.mhlw.go.jp/content/10802000/000962220.pdf
5)DPAT活動マニュアル Ver.3.0 令和4年4月14日改訂
6)厚生労働科学研究費補助金 地域医療基盤開発推進研究事業「災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動期間及び質の高い活動内容に関する研究」令和3年度 総括・分担研究報告書 研究代表者 太刀川 弘和 令和4年5月
7)令和4年度厚生労働科学研究費「災害派遣精神医療チーム(DPAT)の活動期間及び質の高い活動内容に関する研究」分担研究報告書 研究分担者:辻本哲士 「自治体からみた活動開始・終了基準、 Local DPATの役割検討」 研究分担者:丸山嘉一 「DMAT、日赤からみたDPATの活動開始、終了基準、Local DPATの役割に関する研究」令和5年5月
8)笠岡(坪山)宣代:イタリアの避難所における生活支援・食事支援の事例〜キッチンカー、食堂、トイレ、シャワー、ベッド、テントのパッケージ支援〜 日本災害食学会誌VOL.7 NO.1 2020年3月
はじめに/1.DPATの現状
2.災害時の精神保健医療福祉活動について
3.三重県DPAT研修の現状/4.DPATの課題と今後の役割について
おわりに