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No.12 高齢者の生きがい

聖路加国際病院理事長  日野原 重明


6.症例

 この順応性を日常の私たちの生活の中での例で説明してみましょう。
まず睡眠の変動について説明します。

 私は平素極めて多忙なため、睡眠の平均時間は5-6時間です。そして一週間に一回は徹夜で原稿書きをするという不規則な生活を余儀なくされています。徹夜をすれば、そのあくる日は普通は睡眠不足のために全身の調子は悪く、倦怠感があって活力がないように感じる人が多いようです。しかし、私の場合は徹夜しても、その間集中して原稿がうまく書けたとなると、うまく書けたという自己評価が心の内部には達成感の喜びを生じさせ、徹夜の翌日もそれほど眠く感じられなく、逆に私の気持ちはハイの状態となり、1日中爽やかな気持ちで過ごすことができるのです。

 私としては、責任ある仕事、情熱をもつ仕事の進行振りに、たとえ睡眠不足でも心は達成感のために、疲労感はなく、気持ちはいつも爽やかに感じるのです。

 健康には病気をもたないという確証を得るというメリットがありますが、もし病的な状態が発見されたとしても、それへの対策とは別に、自覚的には爽やかに生かされているという健康感を体感することが極めて大切なことだと私は思います。すなわち、・・・・・・にも拘わらず健やかに感じられるということは楽しいことです。

 私の場合、1日の食餌摂取のパターンは常識から考えると極めてエキセントリックです。普通、健康法というと、朝食を始め3回の食事を規則正しく、しかも毎日バランスのよい食品を取ると言うことが奨められています。

 私の場合、普通は午前1-2時まで自宅で仕事をし、翌朝目覚まし時計で7時に目覚めますが、午前7時30分または8時からの重要な幹部会に遅刻しないようにするためには、ゆっくり朝食をとる時間がありません。

 そこで私は立食のまま、大急ぎでコーヒーミルク1杯、果物のジュースにオリーブ油15gを浮かべてのみ、さらに牛乳180gに小さなクッキー1・2枚を添えて飲みます。

 私の病院や大学、その他の関係財団での仕事の大部分は会議に出ることと、人に面会することの予約で1分の隙もありません。そこで昼食をとる時間のないことから、私は5年前からは牛乳1杯とクッキース2枚が昼の常食となっています。

 そして夜までお茶を飲むことはほとんどなく面会客にもお茶を出すことはありません。それで夕食は7-9時になる場合が多いのです。

 自宅での夕食はご飯1/2杯、魚または肉(ヒレ)100g、大豆製品、サラダに十分のドレッシング(植物油)をかけ、食後には果物をとります。若干甘いものもとりますが、1日の摂取エネルギーは(1300〜1400キロカロリー)です。ちなみに92歳の私(身長165cm、体重66kg)の基礎代謝量は1300キロカロリーであります。

 会食、その他で少しこの基準を超えた場合、翌日の摂取量を少なくします。外国旅行中の体重増加は帰途の機上での食事制限と帰国後の食事制限で1週間以内には基準の体重に戻すことにしています。

 車ばかりの生活で運動不足のため、朝の体操と屋内外の階段の使用に心掛けています。

 以上の私の生活は、いわゆる朝食をしっかり食べ、規則正しく他の2回の食事をとるといった健康法から逸脱した不規則なものですが、これはいいわけでなく、不規則性への順応と自分では考えています。

 私には「病院の経営」、「医師やナースの教育」、「新老人の会」など医療従事者や子供の教育法の刷新を目指しての仕事に熱中する激しい日常生活があり、それが私の生き甲斐となっています。

 生き甲斐を持って仕事をする上で、生活スタイルを変えたいとき、その新しいスタイルによく順応できるということこそが、「健康」であると私は考えています。

7.むすび

1.老人の心の健康
2.漢字の「健康」の意義
3.血液中の酸・塩基平均とは
4.体温の調節
5.健康の新しい定義
6.症例
7.むすび

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