(社)日本精神保健福祉連盟 常務理事大西 守 本人・家族へのアプローチは「事例性」が優先される職場でメンタルな問題が疑われる事例が発生した場合、まず対応に当たるのは直属上司など精神医学には素人の人たちです。もちろん、専門家と同じ視点で判断するのは不可能です。それを補う視点として重要なのが、問題を感じた際には「事例性」と「疾病性」との2つに分けて把握していく方法です。 事例性とは、「上司の命令に従わない」「勤務状況が悪い」「仕事がいいかげんだ」「周囲とのトラブルが多い」など実際に呈示される客観的事実で、職場関係者はその変化にすぐに気がつくことができます。一方、疾病性とは「幻聴がある」「被害妄想がある」「統合失調症が疑われる」など症状や病名に関することで、専門家が判断する分野です。つまり、職場で何かメンタルな問題を感じた際には、病気の確定(疾病性)以上に、業務上何が問題になって困っているか(事例性)を優先する視点です。 例えば、「職場で何か奇妙な行動をとる人がいる」と周囲が感じた際には、本人もしくは周囲にどう影響しているかの現実を捉らえることから始まります。「出勤状況が不規則だ」「仕事に集中できず、周囲に負担をかけている」「そうした状況を本人は少しも自覚していない」など具体的に把握していく手順です。その結果、素人からみてもメンタルな問題を感じれば、自身で判断するのではなく、産業医・産業看護職などを通じて専門家につなげるための方法と役割分担を考えていけばよいでしょう。 また、家族よりも職場関係者の方が労働者の精神的変調に早く気がつくことも少なくありません。その際には、上長なり職場関係者が電話ではなく、可能な限り直接会って話すことが奨められます。手間暇はかかりますが、職場側の誠意が伝わり、話の行き違いも少なくなり、それがプライバシー保護へもつながっていきます。 そして、家族への説明もやはり事例性が優先されます。「おたくの御主人は精神的におかしいです」といった疾病性にもとづく言い方や、「何かお疲れのようです」といった曖昧な表現ではなく、職場を休んだり遅刻した具体的な回数、業務量の低下など実際に困っている客観的な事実だけを伝えることが肝要です。たいていの場合は家族にも思い当る節があるはずで、ない場合は理由を尋ねてくるでしょう。この段階になって初めて、「どうも精神的にお疲れのようです。場合によっては、専門家に相談してみてはいかがですか」と話を持っていくのです。この順序を間違えると、「夫を精神障害者扱いにして」と家族の反発をかって、その後の対応がうまくいきません。すなわち、職場主導で解決をはかるのではなく、当該労働者や家族をサポートする形で問題解決への道筋をつけていくのが原則です。 職場でのメンタルヘルス活動の現状は |
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